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理事長メッセージ

ごあいさつに代えて:厳しい競争的環境を乗り越えるために
〜“ Blue Ocean Shift Inspired Approach ”〜

理事長

 平素は親和学園の教育研究にご理解とご支援を賜りありがとうございます。9月を迎え、改めてごあいさつ申し上げたいと思います。新年のあいさつを申し上げて、早いもので、もう9月。毎月、一度はメッセージをお送りしたいと思っていましたが、日々の忙しさにかまけて、今日になってしまいました。申し訳なく思いつつ、新たな気持ちで、秋学期のごあいさつを申し上げたいと思います。とくに、幼稚園、小学校、中学校&高等学校の先生方が新たな気持ちで子どもたちと新学期をお迎えのように。
 今日は、最近というよりもここ10数年、考え続けていることについて、最近、手にした書籍を参考にお話しさせていただきたいと思います。

 とくに、私立の学校&大学関連の方々は切実に感じておられることと思いますが、教育界をめぐる状況にはまことに厳しいものがあります。最近の新聞では、この10年間で140を超える学校法人が閉じたという記事を目にしました。いわゆる定員割れについては、大学の40%ほどが定員割れしているということは、少子化が注目され始めてからは、しばしば話題になりました。しかし、定員割れ(私立の中学や高校の場合、募集定員と言う学校が多い。)は、大学に限らず隠れてと言った方が適切かもしれません。)、大学入学の6年前の12歳が入学する私立中学校の場合、すでに顕著な現象でした。
 大学の場合、20数年前には、18歳人口は200万人を超えた時代もありました。大学数も今(約700大学)の半数以下でした。大学改革や学生募集のための努力をあまりしないでも、定員以上の学生を確保できた時代でした。臨時定員増が認められ、定員の1.5倍の学生を確保・入学させることもできた時代でした。
 しかし、18歳人口が120万人を割り、かつ、昨年、生まれた赤ちゃんが100万人を切った今、その競争的環境には過酷なものがあります。チャン・キムらの言葉で言うと、「赤い海(レッド・オーシャン)」の只中にいるという状況でしょう。赤い海では、少ないパイを奪い合い他を追い落としてでも、競争に打ち勝ち、生き残っていくことが目的となります。それこそ、チャンらの言葉を借りれば「血みどろの競争が展開する非情な市場、つまり多くのサメが棲むレッド・オ−シャン」(W・チャン・キム&レネ・モボルニュ著、有賀裕子訳『ブルー・オーシャン・シフト〜競争を越えて〜』、ダイヤモンド社、2018年、7ページ)なのです。
 チャンらによれば、私たちの目指すべきは、この「レッド・オーシャン」を乗り越え、新しい創造のフロンティアを開拓すること、すなわち「ブルー・オーシャン」の世界を創造することなのです。チャンらの次の言葉には、「ブルー・オーシャン」の考え方が如実に表現されています。「我々にとっては、競争を抜け出して、機会、成長、雇用に満ちた新しいフロンティアを開拓した組織や個人こそが、尊敬の対象であり勇気の源泉である。そのようなフロンティアにおける成功とは、往々にして縮小傾向にある既存のパイを奪い合うのではなく、すべての人のためのより大きなパイ、すなわち、ブルー・オーシャンを創造することである。ブルー・オーシャンは破壊よりもむしろ非破壊的創造の産物であり、成功は他者の犠牲の上に成り立つのではない。」(同上書、Aページ)
 まさに、私たち(教育関係者)も、多くの企業と同じように、減少する一方のパイ(児童数)を奪い合う「レッド・オーシャン」の只中にあり、そこで必死に溺れないように泳いでいるというのが、正直な現状ではないでしょうか。
 しかし、「学校・大学といった教育機関でこういう状態がいつまで続くのか。果たしてこういう状態でよいのだろうか。他方、このような競争的状況を乗り越え、ビジョナリーな学園になる方法がありうるのだろうか。」このような問いが、長い間、理事長としての私の問いであり、それをどう乗り越えていくか、その戦略を見出すことが私の仕事であり、責任でした。(ビジョナリーといえば、ジム・コリンズらの『ビジョナリーカンパニー@ABC』は示唆に富む研究書で、大いに刺激を受けた名著です。たしかに数百年にもわたって、繁栄し続ける企業・学校・大学もあります。オックスフォードやケンブリッジは長い歴史を持っています。親和学園も130年の歴史を有しています。それでも、並みの努力で、時代を越えて、ビジョナリーな企業や学校・大学であり続けることは難しいと思っています。)
 追々、こうした問いに対する私の戦略についてお話しさせていただきたいと思っていますが、今日は、最近、『ブルー・オーシャン・シフト』で示唆を受けた戦略の一部を紹介してごあいさつに代えたいと思います。
 『ブルー・オーシャン・シフト』では新しい視点からのさまざまな戦略が検討されています。その一つは「競争を戦略思考の中心に据えるべきではない」というものです。そして、「差別化の推進と低コストの両方を実現する。」さらに、そうした「ブルー・オーシャン」への道を「公正で人間らしい」プロセスと規定していることです。ブルー・オーシャン戦略は、この3つの基本理念からスタートしていると言っても過言ではないでしょう。もちろん、われわれに示唆を与える視点や考え方、そして、多くの実践的取組みに満ちた素晴らしい著書であることは言うに及びませんが。
 今日は、哲学的な難しい説明を避けるために、競争を越えて「ブルー・オーシャン」を創造した企業(シルク・ド・ソレイユとシチズン・M・ホテルズの2社)の4つのアクションを紹介して、ブルー・オーシャンの分かりやすい説明に代えたいと思います。
 以下の4つのアクションとは、いわゆるスクラップ&ビルドの具体的な戦略だと言えます。
@ 「取り除く」(eliminate)
 ほとんど利益を生まないのに、コストの高いものを取り除けば、コスト削減が可能となる。
A 「減らす」(reduce)
 顧客に奉仕するという名目のもとに無駄にコストをかけている要素を大胆に減らす。
 そうすれば、大きなコスト削減になる。
B 「増やす」(raise)
 業界がこれまで顧客に強いてきた不都合をあぶり出し、その代わりに顧客のニーズ以上のものを大胆に増やす。
C 「創造する」(create)
 まったく新しい種類の価値を創造し、非顧客層を顧客層に変えることによって新規需要を創出する。

 これらの4つのアクションについて、チャンらの説明を引用しておきます。(同上書、252〜256ページ参照。)
 「取り除く」と「減らす」ことによって競合他社との対比でコストを減らす方法が見えてくるでしょう。対照的に、「創造する」と「増やす」ことは買い手にとって価値を飛躍的に高める契機になるでしょう。
 しかし、とりわけ重要なのは、「取り除く」と「創造する」です。価値創造の新しい手法を模索することを促すからです。新たな価値コストフロンティアを開拓して競争から抜け出すには、既存の要素を取り除き、新しい要素を創造することによって、未知の価値を買い手に提供する必要があるのです。
 一方、「減らす」と「増やす」だけでは、競争状態の中での調整的なアクションであり、そこから抜け出ることはできないからです。
 ちなみに、こうした4つのアクションはそれぞれのアクションの頭文字をとってERRCグリッドといいます。ここでは参考に、競争状況から脱して独自の立ち位置を築いた2つの企業のERRCグリッドを紹介しましょう。ぜひ、テーマを変えて、私たち自身の組織やテーマに当てはめると、とても参考になります。いままで見えていなかったものが見えるかもしれません。
 まず、シルク・ド・ソレイユ(以下、「シルク」という。)については、ご存知の方が多いと思いますが、私は単なるサーカス団と思って、数年前に学生のカナダ研修に同行したときも、学生たちは観に行ったのに、参加しませんでした。「シルク」についてはその程度の理解でした。「シルク」のブルー・オーシャンへの復活ぶりは本書で詳しく、説明されています。要約するというより大ざっぱに説明します。
 子どもたちに人気のあった動物ショーでしたが、子どもたちはテレビゲームに夢中になり、コストのかかるだけのショーになっていったのです。サーカス業界は観客が減少した上に動物愛護団体の反対などもあり、「負のスパイラル」に陥っていました。「シルク」は「ほかのサーカス団が相変わらず動物ショーを見せ、サーカス界のスターを雇い、隣接する3つの舞台で同時にショーを行い、館内でのグッズ販売に熱を入れるのを横目に、シルクはこれらのうちの一つとして実践していない。」反対に、動物ショーや花形スターのパフォーマンスを「取り除き」、芸術性の高い音楽とダンスを「創造する」ことで、新たな顧客層を開拓したのです。チケット代も高く設定しても、世界の各地で興行をしても、多くのお客さんが集まるようになったというわけです。差別化とコスト削減の両方を実現したのです。シルクの4つのアクションは次の図の通りです。

※@シルク・ド・ソレイユの場合
 <「シルク」のERRCグリッド>
ERRCグリッド
※AシチズンMホテルズの場合
 シチズンMホテルズ(以下、「シチズン」という。)といっても、ご存じない方が多いかもしれません。当の私も、この書を読むまで知りませんでした。それはさておき、ここでは 「シチズン」がどうやってブルー・オーシャンを創造したのか、ポイントを説明します。
 「シチズン」の共同創業者であるマイケル・レヴィは「レッド・オーシャンとは、まさにホテル業界を指す言葉だろう。赤いなんてものじゃない。真っ赤もいいところだ。」(同上書、256ページ)五つ星、三つ星の違いがあっても、「いずれのホテルも同じ要素を武器に競争しており、提供度合いがちがうだけ」だったのです。シチズンの「ブルー・オーシャン」チームは頻繁に旅行する人々の意見を訊き、問題点と選択理由を特定したのです。問題点には、チェックに要する長い時間、フロントの態度、ネットや電話料金がべらぼうに高い、ベッドやシーツの質の悪さ、シャワーの水圧の低さ、余りに大きい部屋の等々でした。そして、かれらが三つ星よりも五つ星を選ぶ理由を3点に絞りました。つまり、@そこで感じる豪華さや美しさ、A贅沢な睡眠環境、B最高の立地、でした。
 「シチズン」は下記の表にあるような4つのアクションを特定し、見事にブルー・オーシャンを創造したのです。「シチズンMホテルズは、観光業界のゲストランキングで最高の評価を獲得し、五つ星ホテルに交じって『素晴らしい』『最高』といったカテゴリーに名を連ねている。宿泊料金は三つ星ホテルの顧客層にも手の届く水準である。」(同上書、262ページ)一度、「シチズン」のホームページで確認してみてください。現在、日本のビジネスホテルでも新しい潮流が見られると聞いています。
    
 <「シチズン」のERRCグリッド>
ERRCグリッド
 2学期(秋学期)のご挨拶としては、異例なものになりましたが、今後も、このような形で親和学園の経営についてお話しし、ご理解を得たいと考えています。どうぞ、今後ともよろしくお願い申し上げます。

2018年 9月10日
学校法人親和学園
理事長  山根 耕平




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