新年のごあいさつ
新年、明けましておめでとうございます。昨年は親和学園の教育・運営にご理解とご支援を賜り、厚くお礼申し上げます。衷心より感謝とお礼を申し上げます。
さて、親和学園は、おかげさまで今年、親和女学校を創始として創立138年を迎えることができました。これまで親和学園の長い歴史を支えてこられました校祖友國晴子先生をはじめ学園関係者、そして地域社会の皆様に改めて感謝申し上げたいと思います。
新年を迎え、親和学園のめざす教育について所信を述べさせていただきます。
最初は、いつものように時代の動向について概観します。なぜかと言うと、教育の問題を教育分野だけで語れる時代ではないからです。マルクス・ガブリエルが指摘した(『日本社会への問い』NHK出版新書、2023年、18ページ)ように、現代の多くの危機的な問題群は単独で生じているのではなく、「ネステッド・クライシス(網の目の危機)」となって相互に絡み合っているからです。今日ほど、1つの分野の問題の理解と解決にはより大きな視野からのアプローチが必要となっている時代はないからです。
例えて少子化の問題を考えれば、ガブリエルの指摘がよく理解できます。加速度的に進行する日本の少子化問題は、その減少のスピードからみても、日本社会全体に深刻な影響を及ぼしています。経済の停滞(円安や人手不足)、年金制度の破綻の可能性(少人数の若者世代が多数の高齢世代を支える制度)、地方における消滅都市の出現等々。いずれも超少子化に端を発する重大な事態が予測される「ネステッド・クライシス」です。広く、かつ射程の長い視野でのアプローチが必要な問題なのです。この認識から世界の動向を概観します。
誰もが分かっていることですが、人類はかつてない困難な状況―-感染症のパンデミック、多くの犠牲者を出し続けても終息の兆しの見えない残酷な戦争、世界に見られる民主主義の機能不全や権威主義の台頭など混迷する政治状況、世界各地で頻発する大規模な自然災害等々―-に直面しています。また、テクノロジーの目覚ましい発展もあり、社会の変化のスピードと複雑性がますます増大する「破壊的変化」の時代を迎えていると言えます。
とりわけ、AIの進化にはすさまじいものがあり、その進化を象徴するかのようにAI関連の研究者2名が今年のノーベル賞を受賞しました。そのうち物理学賞を受賞したトロント大学のジェフリー・ヒントン教授は、AIによる人類の滅亡の可能性すら予想して、その深刻なリスクに警鐘を鳴らしています。オープンAIのCEOであるサム・アルトマン自身もすでに「(AIの)進化とは暴走列車であり、なにものも止めることができない。」(スティーブ・ロー、『技術という「暴走列車」の終着駅はどこか』(朝日地球会議編『人類の終着点:戦争、AI、ヒューマニティの未来』朝日新書、2024年、89ページ)と述べていましたが、この暴走列車の行き先は不明です。ただその功罪が極端な2極化状況をもたらしており、私見ですが、世界は全体として悪い方向に向かって進んでいると思います。このように、人類は多元的な変化の過程にありかつてない困難に直面していると思います。
一方で、私たち教育機関も、別な次元で、実に厳しい状況に直面しています。そうです。日本は加速度的に進行する「超少子化社会」に突入しています。分かりやすい数字で見てみましょう。今年成人式を迎える若者は約109万人ですが、2023年の出生数は約72.2万人でした。現在の10歳人口の約104万人と比較しても、児童数は10年間で30万人以上も減少しています。さらに2024年の出生数については70万人割れが確実視されています。まさに「人口急降下」の状況です。今後、私たちをさらに厳しい「未来の現実」が待っているのです。この「未来の現実」については、ドラッカー的に「すでに起こった未来(the future that has already happened)」(井坂康志著、『ピーター・ドラッカー』岩波新書、2024年、92ページ)と言った方が適切かもしれません。
私たちは、このような時代だからこそ、教育分野においても、広い視野のもとに常に「新しい現実」を見続け、「新しい課題」を発見し、そして「新しい目標」を探求することが求められていると思います。この考えのもとに5年先、10年先の社会の在りようを視野に入れて未来を構想する一方で、目指すべき教育のパーパス(社会的な存在意義)を明確にし、勇気をもって新たな教育に挑戦していかねばと考えます。
とはいえ、私たちがこれまで積み上げてきた教育の実績はすべて意味がないのでしょうか。私の世代から言うと、「昭和の教育」はすべて「昨日の教育」なのでしょうか。いや、私は、逆に、「昨日の教育の核心」は「未来の教育」を支える大切な原資だと思っています。ここで、私が何度か強調してきた「両利き(ambidexterity)」のアプローチが必要だと思います。新たな時代に対応する新規の教育事業を「探索する」とともに、これまでの親和教育の基本形の核心、その強みをさらに「深化する」ことが、今後の取るべきアプローチだと考えています。いっそう、具体的に言えば、生徒・学生との誠実な向かい合い、すなわち、その“always in human touch”という親和教育の核心、その基本形を徹底していくことが、新規事業を探索・実行していくことの前提条件だと考えています。
このような認識から、親和中学校では今年度より「新しい教育の枠組み」として「女子部」と「共学部」の併置という、開学以来のイノベーションを実行しますが、138年の伝統の核心である「生徒との誠実な向かい合い」を不動の要件として、時代の要請に応える新たな教育可能性を探求していく所存です。
大学においても、共学化3年目を迎え、学生の「新しい主体性」の育成を目標に、大学を挙げての新たな社会的事業――神戸市北区とのアライアンス事業――に取組み、未来を切り拓く大学教育に挑戦していきますが、その成否のカギは、先に述べたように、教職員と学生との日々の誠実な向かい合いと協働にあると考えています。
親和学園は、今後も、多様性と包摂性を教育の基本原理として、園児・生徒・学生の存在とその成長可能性を畏敬するとともに、日々の誠実な向かい合い(“always in human touch”)を心がけ、最終目標である彼ら彼女らの“well-being”を実現するための教育に専心すること、この認識について新年を迎えて改めて再確認します。改めて皆様のご理解とご支援をお願いする次第です。
終わりになりましたが、新しい年を迎え、皆様のご健勝とご活躍を、そして世界と社会の安寧を祈念申し上げます。また、親和学園に在籍するすべての園児・生徒・学生・教職員にとっても素晴らしい年となりますよう祈念しています。
令和7年 元旦
学校法人親和学園
理事長 山根 耕平
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