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親和中学校・親和女子高等学校神戸親和大学附属親和幼稚園
理事長メッセージ

新年度のご挨拶

理事長   新年度を迎え、一言、ご挨拶申し上げます。
  親和学園では、お陰様で今年度も保育園・幼稚園・中学校・高等学校・大学と新しい仲間を迎えることができました。教職員一同、気持ちを新たにして、日々の保育・教育・研究に努めてまいります。変わらぬご理解とご支援をお願い申し上げます。
  さて、現代社会は、あらゆる分野でかつて経験したことのないスピードで大きく変化しています。変化に応じて新たな課題も噴出しています。私たち教育に関わる者にとっても、こうした社会の変化に関心をもち、広い視野に立った幅広い知識が求められる時代だと思います。学校という塀の中にこもっていてはいつの間にか、時代から取り残されてしまうことを危惧しています。
それでは子どもたちも不幸です。こういう意味で、ここでは少し、社会の変化(テクノロジーの進化)の一端に触れて、学園の教育について説明させていただきたいと思います。
はじめに:世界の動向と学園をめぐる状況
  まず、注目したいのはデジタル・テクノロジーの進歩です。私の世代ではその変化の速さについていけない感じを強くしていますが、最近、印象深い言葉を目にしました。1つ目は、かつて2045年にAIが人間の知能を追い越す、いわゆる「シンギュラリティ(Singularity)」を迎えると言われていましたが、最近、グーグルのAI担当者の、今後数年で、その時を迎えるだろうという発言を耳にしたことです。そこまでAIの進歩の速度が速まっているのかと思いました。
  2つ目は、ChatGPTを開発したオープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)の非公開で話した刺激的な言葉です。「(AIの)進化とは暴走列車であり、なにものも止めることができない。もしかしたら天国まで伸び続ける木のようなものかもしれない。」(『人類の終着点』朝日新書、2024年)思わず考えてしまいました。私たちはこの「暴走列車」に乗っているのか、と。特に、デジタル・ネイティブと言われるZ世代やアルファ世代の若者はすでに乗っているのではと思ってしまいますが。
  「暴走」か「進化」か。一例を紹介します。イーロン・マスク氏が手掛けている「ブレイン・コンピュータ・インターフェイス」の開発です。橘氏によれば「大脳に超小型デバイスを埋め込み、脳の信号を読み取ってインターネットに直接、接続できるようにする技術で、サルでの実験を終え2024年1月には麻痺などの障害を持つ患者への治療が行われた。この技術が完成すれば、念ずるだけでロボットを動かしたり、思考がそのまま相手に伝わるテレパシーが可能になる。」(橘玲著、『テクノ・リバタリアン』文芸新書、2024年)そうです。こうしたイーロン・マスクの挑戦は「暴走」なのでしょか。「進化」なのでしょうか。私たちの気づかないところで、変化が「とてつもないスピードで進んでいる」ようですが、ただ、テクノロジーの進化によって社会がすべて最適化されると単純に思い込んでいいのでしょうか。とにかく、この3つの言葉はいろいろな意味で、考えさせられる言葉でした。
  他にもショッキングな言葉を目にしました。何度も来日しているドイツの若き哲学者マルクス・ガブリエルの言葉です。「以前より日本は『90年代的』になっている。「日本は、まだ自身を21世紀に置いていない。」「今でもある程度、90年代の恩恵を享受することができていて、今後も、やはり90年代の遺産によって進み続けるでしょう。・・・新たな挑戦の兆候が見えないこと、それが今の日本に見られる最も強い不安の正体です。・・・私は、日本は今こそ、ジャンプするべきだと思います。」(丸山俊一、『マルクス・ガブリエル:日本社会への問い』NHK出版新書、2024年)政治・経済・文化等々、多くの分野にあてはまる指摘ではないでしょうか。教育界においても、私たちはいまだ20世紀に留まっているのでしょうか。心に留めておくべき問いだと思います。
  では、話題を教育界に移します。私たち教育機関をめぐる環境にはまことに厳しいものがあります。その最大の要因は、言うまでもなく、加速度的に進行する少子化です。2022年の出生数は約78万人超えとなり、「80万人ショック」と言われるほど、教育関係者に大きな衝撃を与えました。また、2023年の出生数が76.6万人(外国人の新生児数を含む)と発表されたこと、さらに、2024年は70万人割れも視野に入ってきたということで、私たちは、否応なく、事態の深刻さを認識せざるを得なくなりました。ドラッカーの言うように、「人口構造だけが未来に関して唯一の予測可能な事象である。」(ピーター・ドラッカー著、上田惇生訳『マネジメント:課題、責任、実践(上)』ダイヤモンド社、2008年)からです。
  こうした厳しい少子化状況のもとにある私たち教育機関は、園児・生徒・学生の確保を巡って熾烈な競争状態の只中に、いわゆる「サメの棲むレッドオーシャンの世界」の只中にいるといっても過言ではありません。私たち教育関係者は対応に頭を悩ませていますが、「レッドオーシャンの世界」で活路を見出すことは容易ではありません。よく話題になる大学を例にあげれば、共学化に活路を見出す女子大学もあれば、学生募集を停止するという辛い決断をする大学もあります。今後、教育機関においても、企業並みに合併・吸収という事態も十分に想定されます。いや、想定しておかなければならない時代だと思います。
  私は、事態は深刻ではありますが、こういう時期だからこそ、ピンチを機会に変える発想が必要だと思います。そのためには相当の改革、いやイノベーションが必要だと考えています。そして、それを実現するためには相応の理念・戦略とそれに取組む者の適切なマインドセットが必要だと思っています。以下、学園経営において私が常々強調している戦略とマインドセットについて説明し、ご理解を得たいと思います。
 (1)変化に迅速かつ適切に対応する
  現在、世界の不確実性と不安定性は歴史上かつて経験したことのないほど高まっており、私たちは厳しい変化(Ups and Downs)の只中にいます。変化の量も、複雑性も速さも想像を越えています。言われるように「今までのスピードで動いていては、厳しい未来が待っている。」「今日の世界では、変化に素早く適応しないことほど大きなリスク要因はない。」(ジョン・コッター&バネッサ・アクタル&ガウラブ・グプタ著、池村千秋訳『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』ダイヤモンド社、2022年)コトラーが引用した言葉も常に肝に銘じておきたい言葉です。「変化するか、さもなければ死ぬだけだ。」「変化のスピードはきわめて急激であり、変化できるかどうかが、いまや競争優位となった。」(フィリップ・コトラー著、木村達也訳『コトラーの先約的マーケティング』ダイヤモンド社、2022年)
  しかし、変化の必要性や重要性を理解していても、実際に変化を達成し、組織を発展させるケースが多くないのも事実です。人間は本来的に変わることには保守的なのでしょうか。変化の時代、それでは生き残ることはできないことは重々承知しているはずなのですが。今や私たちは、リンダ・グラットンが言う(リンダ・グラットン著、池村千秋訳『ワークシフト』プレジデント社、2017年)ように「漫然と迎える未来の暗い現実」と「主体的に築く未来(コ・クリエーションの未来)」のいずれかの選択を迫られているのです。その際、必要なのは「学習しながら実行する。実行しながら学習する。」(E・A・エドモンドソン著、野津智子訳『チームが機能するとはどういうことか:TEAMING』英治出版、2021年)という行動様式を身に付けることです。さらに言えば、そうした過程で自分自身を変え成長させることが必要です。組織を発展させその未来を拓くためには、自らが変わり成長することが必要だからです。まさに「変化することを終わりにした人には、終わりが訪れる。」(コッターら、前掲書)と思っています。
  ただ、難しいのは「変化するタイミング」です。「いつ変わるか」は最も判断が難しく厳しいものと言えます。マクロの視点からとミクロの視点からの議論も必要ですし、外的条件と併せて内部的条件を検討することも必要です。しかも短期間での議論と判断が求められています。
  親和学園の大学の共学化を例に話せば、近畿圏の17女子大学の動向、学部学科の動向、そして本学の立ち位置と特色を検討・議論を重ねた結果、比較的に短期間の議論のもとでの判断でした。運もよかったのは、日本の女子大学で2大学のみの共学化であったこともあり、マスメディアでも大きく取り上げられ話題にもなりました。仮に共学化が1年、2年、遅れていればこれほど注目さることもなかったと思います。あくまで結果論ですが。
 (2)パーパス(社会的な存在意義)を確認する
  どんな改革をするにせよ、イノベーションに取り組むにせよ、それが時代に必要なパーパス(社会的な存在意義)を有するか否かを、まず、確認する必要があると思います。現代社会が、さらには未来社会が必要とする教育的意義を確認した上で、改革やイノベーションに取り組まなければならないと考えています。親和学園の歴史を遡っても、校祖友国晴子が親和女学校を再興し発展させることができた(その功績も含めて)のも、明治時代のパーパスである女子教育を実現したからです。
  2023年4月に、学園にとって大学を女子大から共学の大学に移行したことはまさにイノベーションに相応しい大事業でしたが、その際にまず確認したことは、高等教育に求められているパーパスでした。性別、人種、国籍、文化の違いを超えて多様で包摂的な社会の担い手の育成をめざすというパーパスを確認しました。そのために、誠実、信頼、協働、レジリエンス、多様性、包摂性、サステナビリティなどをコアバリューとした教育を展望した上での、共学化への転換でした。また、共学化により市場を拡大し教員・保育士不足という社会的課題の解決に資するというパーパスもあったことを付記しておきます。
  親和中学校・親和女子高校においても、不断に、時代が要請するパーパスを確認しながら、教育改革に努めています。その1つが、2024年4月から親和中学校に開設した3つのコースです。「スーパーサイエンスコース」「スティーム探究コース」「グローバル探究コース」の3つのコースです。また親和女子高校の「スーパーサイエンスコース」の延長線上において「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」が文科省より採択・認可されました。親和中学校・親和女子高等学校は、このような教育課程のもとに、今後も時代が要請する「サイエンスマインド」と「グローバルマインド」の育成に努めてまいります。
  しかし、新たな教育の開拓は、決して、親和が長い歴史の中で培ってきた親和教育の理念・精神を疎かにするものではありません。ここで私たちが採用する経営戦略である「両利きの経営」について説明させていただきます。
 (3)「両利き(Ambidexterity)」の経営戦略
  私は、未来を拓く新たな改革・イノベーションには、オライリーらが唱える「両利きの経営」理論が有効だと考えています。学園が長い歴史の中で培ってきた教育理念や哲学・文化をさらに「深化(exploration)」させる一方で、時代(未来を含めて)に対応する新たな教育事業を「探索(exploitation)」するという「両利きの経営」(チャールズ・A・オライリー&マイケル・L・タッシュマン著、渡部典子訳『両利きの経営』東洋経済新報社、2020年)が、学園をめぐる状況を乗り越えるのに必要だと考えているのです。
  具体的に言えば、親和中学校・親和女子高校では、その建学の精神でもある教育観、すなわち、一人ひとりの生徒・学生と日々、誠実に向かい合う教育、いわゆる“always in human touch”をさらに深化させるとともに、一方で、今の社会と未来社会に対応する先に述べた3つのコースという新規の教育事業「探索・開拓」し、高校の“スーパーサイエンスハイスクール(SSH)”へとつなげていくという戦略です。
  親和学園では、今後も、伝統の親和教育の「深化」と時代に対応する新たな教育の「探索」という「両利きの教育」を展開することで、新たな未来を拓いていきたいと考えています。終わりに改革やイノベーションを成功させるためには教職員のマインドセットとして「チェンジメーカーになる」必要性と重要性を強調しておきたいと思います。
 (4)だれもがチェンジメーカーになる
  教育事業における改革にしても、イノベーションにしても、それを成功裡に導くためには、教職員のマインドセットが鍵となります。平尾誠二さんはよく「誰もがリーダーである」と言われていましたが、チームの各メンバーがそれぞれの部署でそれぞれの役割を率先して果たすことが、チームの勝利につながるという趣旨のものでした。ここでいうチェンジメーカーという役割も、それぞれの役割に主体的にコミットメントすることが、組織の目標を達成する上で必要である、重要であるという意味です。
  カリフォルニア大学バークレー校のアレックス・ブダク先生は、「チェンジメーカーとは、変化に主体的に関わることだ。」(アレックス・ブダク著、児島修訳『自分の能力が変わる』サンマーク出版、2023年)と述べて、たとえチェンジメーカーになれないとしても、チェンジメーカーに協力することができるとも言っています。私は、こういう協力・協働の組織風土が大切だと思っています。教職員全員が、個々にリーダーシップを発揮して主体的にチェンジメーカーになるということは、実際には、難しいことだからです。しかし、組織が前に進みだしたとき、すぐさまその流れに乗って、大多数の教職員が協働態勢になるということが、実際は可能で望ましいと思っています。
  2023年度からの大学の共学化がこのことを証明してくれました。終わりに、大学の共学後の報告をさせていただきます。
 (5)共学後の大学
  2023年度の入学者数は467名(入学定員385名)で内男子学生は156名でした。共学化により学内は大いに活性化しましたが、こうした変化のなかで、教職員のマインドがとても前向きで協働的になりました。共学化については、議論の際にも、すべての教職員が賛成していたわけではありませんでしたが、共学化に取り組み、組織が変わる過程でそのマインドがポジティブになったと感じました。学生募集(多様な広報活動や高校訪問は1100校以上)の面でも、授業改善(オンライン授業等)の面でも、教職員の主体的な関わりが顕著になって参りました。変わることの意味は大きいと実感しました。
  このような取り組みの効果もあったのか、2024年度の入学者数は、共学化初年度とほぼ同じ入学者を迎えることができました。2年目のジンクスをクリアできました。とくに男子学生が入学者全体の約4割となりました。この場をお借りして、大学の教育研究にご理解とご支援を賜ったことにお礼と感謝を申し上げます。
  さて、今回の共学化の目指すパーパス(社会的な存在意義)の一つに、先に述べましたように、市場を拡大して社会的な課題である教員・保育士不足に対応するというものがありました。その結果は、児童教育学科(2024年度から教育学科に名称変更)の入学者数は、大きく定員を割った2022年度のそれと比較して、共学により2023年度は192名(定員195名)まで回復しました。さらに2024年度の入学生数は205名(定員195名)で定員を超えました。とくに小学校教員志望の男子学生が増えたことに加え、幼児教育を担う保育者志望の学生も増えたことは、当初の共学化のパーパスが達成でき、3〜4年後には小学校や保育園・幼稚園の現場の要請の応えることができるのでは少し安堵しています。改めて、さらに質の高い「先生」を育てることに注力しなければならないとの気持ちを強くしているところです。
  また、スポーツ指導者の育成という社会的な課題解決をめざすスポーツ教育学科にも多くの入学者がありました。2023年、2024年度と続いて定員を大きく越える入学者があり、とくに2024年度の入学生では男女の割合がほぼ同じになりました。今後、学生増に対応した教員の増員を行い、教育研究の充実とスポーツ指導者の育成に努めていく所存です。
  こういう入試状況で新学期が始まりましたが、新学長のもと、これまでの教育のさらなる「深化」と、新たな時代に対応する新規事業を「開拓」中です。2025年には新たな教育方策を実施する計画が進んでします。ご期待ください。
終わりに
  新年度を迎え、改めて、学園をめぐる状況について、また学園の現状と今後の取り組みについて、その基本的な考え方とマインドセットについて説明させていただきました。長い説明になったこと、ご容赦いただきたく思います。
  世界も、日本の社会も、多くの分野で克服が困難な課題をいくつも抱えていますが、それらの解決のためには分野・領域を超えて協力・協働していく必要があると考えています。私たち教育界が進むべき道についても、越えなければならない壁が多く立ちはだかっていますが、それでも、私たちは園児・生徒・学生の日々の“always in human touch”を基本とした親和教育の「深化」に努めるとともに、未来を切り拓くべく新たな教育事業の「開拓」、そのための改革とイノベーションに挑戦して参ります。今後も、親和学園の教育にご理解を賜れれば誠に幸甚に存じます。
  終わりになりましたが、みなさまのご健勝とご活躍を祈願申し上げます。併せて社会の安寧を祈っています。

2024年 4月吉日 
学校法人  親和学園
理事長  山根 耕平




〒657-0022 神戸市灘区土山町6番1号 学校法人 親和学園