平素は親和学園の教育研究の運営にご理解とご支援を賜り、まことにありがとうございます。心よりのお礼と感謝を申し上げます。
さて、親和学園では、この急速に変化する社会に対応すべく親和中学校に「女子部と共学部の併置」という大きな改革となるスクール・イノベーションを行います。ご存知ように、親和学園は1887(明治20)年に創立された親和女学校を創始として、今年、創立137年を迎えた、神戸で有数の伝統ある女学校です。
しかし、今日、テクノロジーの目覚ましい革新もあり、社会は急速に変化しています。加えて日本では少子化が加速度的に進行しており、教育機関をめぐる環境は厳しさを増しています。このような状況のもと、私たちは新たな発想のもとに未来を創造する教育システムが要請されていると認識し、親和学園の教育理念は堅持しながらも、新たな教育を実現する学校づくりに着手します。改めて親和教育の今日的なパーパス(存在意義)を確認し、創立以来の大きな改革に取り組みます。
以下、今回の改革の趣旨・目的等について詳しく説明させていただきます。ご理解を賜りますようお願い申し上げます。
親和中学校:女子部と共学部の併置 〜建学以来のスクール・イノベーション〜
1. 教育機関をめぐる状況
(1) 加速度的に変化する社会
@世界の状況
近年、新型コロナウイルスのパンデミック、ロシアとウクライナ間の戦争、ハマスとイスラエル間の戦争、気候変動による災害の頻発等々、世界は混沌としその変動性(volatility)、不確実性(uncertainty)、複雑性(complexity)、曖昧性(ambiguity)、いわゆるVUCAが高まっています。同時に、世界的な規模で民主主義の衰退も顕著になってきており、今日、人類はかつてない困難に直面していると言えます。
「教育は時に敏感である」と言われますが、このようなVUCAの時代、改めて教育の在りようが問われています。いっそう適切に言えば、現代の困難な時代を生き抜き未来を切り拓く人間の育成という教育の「パーパス(存在意義)」が問われていると思います。具体的に言えば、一方で人種・国籍・性別・文化等の違いを越えて、他者と協働して世界や社会の課題解決に取組む人材の育成とともに、他方で生成AIに代表されるテクノロジーの進歩を人間と社会のウエルビーイングに最適化する人材の育成という2つの役割が教育に求められていると考えます。今日、教育の役割は本当にかつてなく多様で多義的になってきました。この度の親和中学校のイノベーションもこうした社会的な発展動向への回答の一試みでもあります。
さて、この変化の速い時代ということでは、ChatGPTを開発したオープンAIのサム・アルトマン(最高経営責任者)が「AIの進化とは暴走列車であり、なにものも止めることはできない。もしかしたら、これは天国まで伸び続ける木のようなものかもしれない。」と述べたように、私たちの気づかないところで、社会はとてつもないスピードで変化しているのではないでしょうか。こうした社会においては「変化に素早く適応しないことほど大きなリスク要因はない。」(ジョン・コッター)とも言われます。
また、最近、ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルの「以前より日本は『90年代的』になっているのではないでしょうか。・・・日本は、まだ自身を、21世紀に置いていないからです。日本は今でもある程度、90年代の恩恵を享受することができていて、今後も、やはり90年代の遺産によって進み続けるでしょう。・・・私は、日本は今こそ、ジャンプするべき時だと思います。」という言葉を目にしたとき、日本の教育は時代の変化に敏感に対応しているのか。この変化の速い時代を20世紀の教育遺産で凌いできたのではないか。そう思ってしまいました。教育の分野においても未来に向かって「ジャンプするべき時」だと思います。
ただ、本来的に時間を要する教育という営みが、社会的に要請されているパーパスを確認(必須の作業)して変化に迅速に対応できるのか。いや、教育という営みにおいて迅速な対応自体が適切なことなのか。さらには、テクノロジーの進歩によって、社会(教育も含めて)がすべて最適化されると無批判的に考えてよいのか。この問いに答えることは、考えられる以上に、容易なことではありません。とはいえ、答えていかなければならない時代であることも理解しています。親和中学校のこの度のイノベーションは、先にも述べたように、こうした時代的な問いへの回答の一つの試みなのです。
A日本の少子化
一方で、少子化が加速度的に進む今日の状況では、教育機関の存続をも脅かす事態となっています。2023年の出生数は過去最少の約72.7万人(厚生労働省2024年6月5日発表)となり、2年前に80万人割れで「80万人ショック」と言われたばかりなのに、近い将来の70万人割れも視野に入ってきました。現在の12歳児(中学入学年齢)が100万人超えであることを考えれば、今後10年余りで30万人を超える減少となります。この急激な人口減少は保育園・幼稚園・こども園から大学までの保育・教育機関にとって深刻な問題となっています。「人口構造だけが未来に関して唯一の予測可能な事象である。」(ピーター・ドラッカー)からです。とりわけ、この近未来の現実は女子だけを対象とする女子校にとっては死活問題と言えます。この度の親和中学校のイノベーションはこうした現実への対応でもあります。
このように、2つの意味で、教育(機関)は対応を求められていると考えています。その一つは、変化の時代が要請する新たなパーパスのもとに、どういう教育を展開しその質的向上を図るのかという問いへの回答(対応)であり、他は少子化の厳しい現実にどのように対応し、学園をどのようにして存続・発展させるのかという問いへの回答(対応)です。
(2)変化する社会への対応
@親和中学校の新たな学校つくりの方針
親和学園(ここでは親和中学校・親和女子高等学校を指示する。以下、親和中高と言う。)は、冒頭でも述べましたように、1887(明治20)年に創立された親和女学校を創始として、今年で創立137年を迎えました。創立以来、校祖友國晴子による建学の理念でもある「誠実」「堅忍不抜」「忠恕温和」という3つの校訓を継承し、今日まで社会に有為の人材を輩出する歴史を刻んできました。今、思い起こすべきは、この長い歴史を刻むことができた理由の一つが親和学園の教育が、変化する時代のパーパスに、その都度、適切に対応してきたことにある、ということです。その起点は校祖の教育理念にあります。校祖は当時の社会的なパーパス(存在意義)を深く認識して、女子教育に注力しました。何人かの卒業生に宛てた手紙に校祖の時代の要請に応えるとともに時代を超えた先見的な知見を垣間見ることができます。「折々は社会にも出て人の為に尽くし、内外共に有用の人となりて御働きなさられんことを祈り候。」校祖は明治時代においてすでに社会で活躍し社会に貢献する女性の育成を目指していたのです。校祖は、また、同じ理念のもとに、1911(明治44)年には文部省の高等女学校令に応え社会的ニーズのある「親和実科高等女学校」を、さらに1923(大正12)年には「親和高等技巧学校」を設置しています。校祖の教育については、ここで追記しおきたいことがあります。校祖は教師としての生涯のすべてを学校で過ごし、「同心同行の教育」を実践されたが、分かりやすく言うと、日々、生徒と誠実に向かい合い、その人間的な関わりを、まさに“always in human touch”を教師としてのミッションとしていました。この、いわば親和の精神は、今後も継承しなければならないと強く認識しています。
今日、教育機関(とくに私立学校)は、加速度的に進行する少子化により生徒確保をめぐっての「レッドオーシャンの世界」の只中にあり、まことに厳しい状況に直面しています。それでも、いや、それゆえにこそ、親和学園では、建学の精神を堅持しながら、時代の変化に対応し、その時代のパーパスを確認しながら、「進化」を続けています。社会の変化に対応せず、同じところにとどまっていては、社会から取り残されてしまうからです。私たちはつねに高い目標を掲げながら前進すること、さらに言うと、変化の一歩先をいくことが必要だと考えています。もとより変化の速い時代だからこそ私たちの原点である基本理念としての建学の理念を確認する。改めてこの作業が起点となっての改革であり進歩であることを強調しておきたいと思います。
親和学園では、このような認識から2024年度に時代の要請に応える新たな改革を行いました。中学校に「スーパーサイエンスコース」「スティーム探究コース」「グローバル探究コース」の3つのコースを開設しました。時代が要請する、デジタル化・グローバル化する社会に対応する人材育成が目標です。いわゆる「サイエンスマインド」と「グローバルマインド」の育成、そして2つのマインドを統合する「人間力」の育成を目指しての教育改革です。また同時に、2024年度から高等学校も「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の指定を受けました。この結果、中学からの「スーパーサイエンスコース」が高校のSSHへとつながり、この分野における中高6年間の一貫教育が可能となったことも特記すべきことです。
A女子部と共学部の併置〜両利きの教育システム〜
2025年度からの女子部と共学部の併置は、上記のような現状認識から急速に変化する時代に対応する企画です。新たな学校づくりの試みであり、いわば未来の教育への挑戦と創造なのです。生徒ひとり一人が人として尊重され、とりわけ、その存在と成長の可能性が尊重されるインクルーシブ(包摂的)な教育を実践する学校づくりへの挑戦なのです。
私たちは、女子部と共学部の併置によって、これまでの親和教育の教育理念と伝統を堅持しながら、社会の発展動向とその課題に応える新コースのもとに、理系教育やグローバル探究の教育を推進し、そこで培われた専門性と人間力を生かしてあらゆる分野で活躍できるリーダーの育成を目指しています。そのためのインクルーシブ教育を実践して参ります。
なお、親和中学校における女子部と共学部の併置は、あまり他に類は見ない教育システムですが、一方で長い歴史で蓄積された親和教育のさらなる「深化を図る」とともに、他方で社会の教育課題に応える新規の教育を「探索する」という、いわゆる「両利き(ambidexterity)の教育システム」として機能させ発展させていく所存です。
なお、女子部と共学部の併置は、中学1年生からスタートし、高校卒業時まで進行する中高一貫の教育システムです。
B教育と経営は表裏一体
学校という教育機関は、言うまでもなく、営利を目的とした会社ではありません。この度の改革によって生徒確保の市場を拡大するだけで、親和の未来が拓かれるわけではありません。ただ学園は教育機関ではありますが、経営なくしては存続できません。教育と経営は、いわば、表裏一体の関係にあり、教育なき経営は空虚であり、経営なき教育は存続しえません。この意味において、この度の改革は、教育改革であるとともに経営改革でもあるのです。なにより教育改革なくして親和の未来を切り拓くことはできない。このことを強く認識しています。ご理解をお願いしたく思います。
さて、上記のような社会背景と社会の発展動向の地平のもとに、親和学園の未来を展望するとともに教育機関としての今日的なパーパス(存在意義)を熟慮の上で、建学以来、初めての「女子部と共学部の併置」というスクール・イノベーションを行います。以下、親和中学校のビジョン・教育理念・教育目標・コアバリュー・ミッション・教育の特色等について説明いたします。
2. 女子部と共学部の教育理念等
(1) ビジョン
生徒ひとり一人が、人として尊重され、共に学び共に成長できる、夢のある飛躍する学校(Visionary School)を創造する。
(2) 建学の教育理念
校訓である「誠実・堅忍不抜・忠恕温和」を体現し、誠実に社会と共生し社会に貢献する人を育成する。
(3) 教育に通底するコア・バリュー(価値概念)
@ 誠実 A信頼 B共感 C協働 D対話 E感謝 F挑戦 Gレジリエンス
H多様性 I包摂性 Jサステナビリティ K健康
(4) 教育目標(パーパス)
@ 未来の読めないVUCAの時代において、多様な他者を尊敬し他者と協働して、さまざまな社会の変化を 乗り越え、持続可能な社会の創り手となるために必要な資質・能力を育成する。
A テクノロジーの革新によるデジタル化が急速に進む現代社会において、探究力と科学的思考を備え、 将来、専門性を通して自立的かつ主体的に社会に貢献できるリーダーシップを育成する。
(5) 教育ミッション
@ 生徒一人ひとりの存在とその成長可能性への畏敬を持ち、その最適な学びを支援する。
A 社会の発展動向を広く視野に入れて、教育における多様性と包摂性を重視する。
B 生徒一人ひとりと日々誠実に向かい合う“always in human touch”を心がける。
(6) 親和教育の特色
@サイエンスマインドの育成
生成AIに代表されるテクノロジーが加速度的に進化する社会においては、科学的・論理的な思考力を有す るサイエンスマインドの重要性がますます高まっています。親和教育では理数教育、ICTを活用した教育を はじめすべての教育活動を通じてサイエンスマインドを育成します。
Aグロ−バルマインドの育成
グローバル化が急速に進む社会においては、文化や価値観の異なる他者を理解しその他者と協働して課題 解決に真摯に取組むグローバルマインドの育成が課題となっています。親和教育ではコミュニケーション力 (英語力も含め)の育成と異文化理解を深める体験を重視し、グローバルマインドを育成します。
B人間力の育成
社会のデジタル化とグロ−バル化が急速に進む中、改めて人としての在り方生き方が問われています。 誠実・信頼・対話・共感・協働等々の資質の育成、いわゆる人間力の重要性が高まっています。親和教育で は、すべての教育活動を通じて、生徒ひとり一人の人間力を育成します。
(7)特色ある学び
@探究型の学び〜新しい主体性を培う〜
未来が不確定で「正解」がないといわれる社会においては、自ら課題を発見・調査・思考・発表・表現す る「探究型の学び」が求められます。親和教育では中1・2で「探究入門」から高校1・2で「総合探究」 「理数探究」に至るまで、中高一貫の探究学習を推進し、生徒に将来必要となる「新しい主体性」を培いま す。
A協働型の学び〜持続可能な社会の創り手に必要となる資質・能力を培う〜
人としての成長にとっても学力の向上にとっても、他者と共に学び、共に活動すること、そして協働して 目標を達成するということはとても重要です。親和教育では、日々の授業はもちろん、文化祭や運動会とい った行事や課外活動・社会活動を通じて、協働型の学びを推進し、将来、持続可能な社会の創り手に必要と なる資質・能力を培います。
(8)学びの文化と風土の醸成
親和学園(中高)の文化・風土の特色は、生徒同士、生徒と教員間の人間関係は明るく前向きである点にあ りますが、今後も、下記の点に留意しながらさらなる学び文化の醸成に努めます、
@自立して学ぶ文化・風土の醸成
A 共に学ぶ文化・風土の醸成
B 継続して学ぶ文化・風土の醸成
C 失敗を恐れずに挑戦する文化・風土の醸成
3.教育の基本方針
(1)新しい主体性の育成:生徒の主体的な探究・創造・発見・達成の過程を重視する。
(2)探究学習及び協働学習を推進する。
(3)課題解決力と科学的思考力を育成する。
(4)企画力とマネジメント力を育成する。
(5)デジタル教育を推進(AIリテラシーの推進及びICT活用力の育成)する。
4.カリキュラム(各部のコース・定員)
(1) 女子部(2クラス:60名)
@ 「スーパーサイエンスコース」(30名)
A 共に学ぶ文化・風土の醸成
(2) 共学部(4クラス:130名)
@ 「スーパーサイエンスコース」(30名)
A 「探究コース」(100名)
(3)「探究コース」の分化:中学3年生のときに「探究コース」は「スティーム探究コース」と「グローバル探 究コース」に分かれます。
5.施設整備について
女子部と共学部の2つのシステムの構築に対応して、施設整備を計画的に行っていきます。
教室やトイレ等々の整備と壁面の補修はもとより、理科実験室や特別教室の改修等とを同時期(7〜8月)に行うとともに、3月の休み期間や毎年の夏季休暇を活用して、他の施設の整備も随時行って参ります。生徒たちが安全で清潔で心地よい施設の中で充実した学びができるよう心がけていきます。
6.終わりに:新しい学校づくりへの挑戦
繰り返しになり恐縮ですが、親和学園は、1887(明治20)年に創立された親和女学校を創始として長い歴史を刻み、今年、創立137年を迎えています。親和学園ではこの変化の速い時代において教育のパーパス(社会的な存在意義)を確認した上で、教職員一同、「名門復活。未来を拓く」をモットーに、「女子部と共学部の併置」という大胆な目標を掲げ、新たな未来を切り拓いていく所存です。親和学園の歴史に新しいページを刻む、まさに新しい学校づくりへの挑戦となります。この変化の時代を生き抜き、明日の社会を担う子どもたちのために教育の新たな可能性に挑戦するスクール・イノベーションであることにご理解を得たいと思います。
改めて、皆様におかれましても、親和中学校が新たな学校としてスタートすることにご理解とご支援をお願い申し上げます。学園を挙げて皆様のご期待に応えていく所存です。
2024年 7月吉日
学校法人親和学園 理事長 山根 耕平
学校法人親和学園 学園長 青木 徹
親和中学校・親和女子高等学校 校長 中村 晶平
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